仏教では花をとても大切にしています。花は美しく咲く日のために、寒い冬の間暗く冷たい地中でジット耐え、春の訪れを待っています。その忍耐力が私たちの生き方のお手本になるのです。辛いことや苦しいことがあったとき、お仏壇に美しい花が飾られていると思わず掌を合わせたくなりませんか。それはお釈迦さまが指し示された忍耐の心を象徴するのが花だからです。
お釈迦さまはたくさんの教えを遺されていますが、法華経の中に変わった行いをする修行者が登場するお話があります。この修行者は会う人ごとに『私はあなたを敬います。決して軽んじたりはいたしません。何故なら、あなたは仏様になる人だからです』と礼拝することを修行とされていました。ところが、あまりにも丁寧に合掌礼拝を繰り返すので、愚か者扱いをされていると思った町の人たちが怒りだし、悪口雑言を並べて罵りますが修行を止めようとはしません。ついには木の枝で叩いたり、瓦や石を投げつけますが、避けるようにその場から走り去ると、今度は少し離れた場所から大きな声で同じ言葉を繰り返したのです。何をされても怒らず休むことなく続く修行は、やがて町の人々の心に伝わり、本当の修行者であることが理解されるようになりました。この修行者は「常に汝を軽からず」と唱えていたことから常不軽菩薩と呼ばれ多くの尊崇を集めました。忍耐することの大切さがこのお経に説かれているのです。
今の世の中は、毎日世界中の何処かで戦争が起こっています。憎しみには憎しみで返す人が多いからです。菩薩さまは憎しみに愛を返したのです。これこそが、何ごとにも耐える心を持ちなさいという教えで、仏教ではこれを忍辱(にんにく)と呼び、仏道修行の徳目の一つになっています。忍という文字は心の上に刃が乗っています。移ろいやすい心の迷いを切り取る意味があるからで、忍耐は人生の苦しみや怒り、恐怖や欲望などの感情を抑える鎧になってくれるはずです。
お仏壇の花がいつも拝む私たちの方に向けられているのも、仏さまが、厳しい寒さに耐えて咲いた美しい花を見たら「花の心をお持ちなさい」と諭されておられるからでしょう。花は仏教のシンボルなのです