こんな話を読みました。
さる山寺へ旅の老僧が訪れ、一夜の宿を乞いました。そして老僧は小僧さんの案内を受けて宿泊するのですが、翌朝又見送りに出た小僧さんの顔をシゲシゲと見て、
「いや驚いたねえ、昨晩のお前さんの顔には三日以内に死ぬという死相が出ていた。しかし今のお前さんは80才以上の長命の相に変わっている。きっと昨晩から今朝にかけ、何かすばらしくよいことをしたに違いない」というのです。
「いや別に」とけげんな顔の小僧さんに、
「そんなことはないはずだ」と老僧は又強くいいます。
「さあ、私のしたことといったら、便所があまりに汚れていたので、こっそりきれいに掃除したことくらいです」と小僧さんがいいますと、
「いや、それだよ、それに違いない。その行いがお前さんの相を変えたんだ」
と旅の老僧はわが意をえたりと叫んだといいます。
このお話をつまらぬ昔ばなしとお笑いになりますか。
これは人に知られぬように徳を積む、いわゆる陰徳(いんとく)というものの働きを説いたものですが、とかく人にアピールするための善行になりがちなこのごろ。ひとつあなたにお願いしますが、ぜひ今日からでもお便所の草履が乱れていたら、そっとそろえてみてください。次に使う方がすぐに履けるように、むこうむきに並べるのです。
そうすることによって、あなたのご家庭のお便所の履物がいつもキチンとそろっているようになれば、昔ばなしの老僧がいうように、あなたの顔にはもちろんのこと、ご家庭に何らかの変化が、きっとあるはずです。
これを陰徳と言います。